クリスマスイブ、更に前夜。

冬休みが近いせいか、先生からの頼まれ事が増えた。
物品の整理、書類のチェック……何故学生がこんな事をしているのか、という疑問はいのりには浮かばない。
誰かの為になる。それは、幸せな事なのだ。

内申も上がるし。

それはさておき、明日はクリスマスイブ。
（一応）イエス・キリストの誕生日の前日、となる。

「こんばんはです、管理人様」
「おや、いのりちゃん。また荷物が届いてるよ」
「ああ、ありがとうございます。いつもすいません」

深々と礼をするいのり。
最近ゆっくりと本屋を巡る時間が無いため、新刊をネット書店で取り寄せている。
買い忘れも無いし、見つかり難い本も確実に手に入るためとても便利。
問題は着払いかクレジットカードしか使えないという点であり、クレジットは学生の身では不可能。着払いは管理人に立て替えて貰うことになってしまうのでダメ。
しかし、最近プリペイドがコンビニで販売された為ついに導入に踏み切ったのである。

しかし、今回の荷物は本ではない様子。
ダンボール箱には「みかん」の文字が。
父親からの差し入れのようだ。

ダンボール箱を抱えて、部屋に戻る。
実家では、毎年この時期になるとみかんを食べていた記憶がある。
お歳暮で貰ったりしたものをひたすら毎日食べていたのだが、どうやら父親はみかんの処分を娘に押し付ける気らしい。
確かに、ほとんど食べていたのはいのりではあるが。

ガムテープをぺりぺりと剥がすと、中にはみかんがぎっしり。
いつもの習慣で、腐っているみかんは無いか中身を全て取り出してチェックする。
これを怠ると、とても大変なことになる。
「お前らは腐ったみかんだ！」とドラマで言うように、ひとつ腐っているとあっと言う間にみんなダメになってしまうのだ。
ひとつふたつ、ふにょふにょになったみかんを発見。蟲に処理を任せる。
底までひっくり返したところで、封筒と紙袋が出てきた。

嫌な予感がする。

封筒から手紙を取り出す。

”いのりへ　みかん送ります　後は任せた　父・啓二”

”追伸：　今年のクリスマスに着てもらおうと用意していた服も一緒に送りました　聖職者ですから　クリスマスはきちんと祝いましょうね”
”服を着て　皆さんにプレゼントでも配ってきなさい　やらないとゴッドチョップ”

……つまり、この紙袋の中身は服。
一瞬何事も無かったかのように紙袋をダストボックスへダイレクトシュートしかけたが、思い留まる。
前回の経験がある。
間違いなく今回も、何らかの方法で娘の行動をチェックしているはずだ。うちの父親ならやりかねない。


ため息をつきながら、服を取り出して着替えた。
先手を打って、服を着て自分で写真とって送ってしまえ。
そうすれば、後はどうとでもごまかせる！



（ぱしゃっ）

割とノリノリでポーズを取ってみたりしていると、突然チャイムが鳴り響いた。

「いのりちゃーん？入るよー」

上人の声だ。
止める間も無く、入ってきた上人はサンタ服。

「……」
「……」

「明日も着てくれますね？私一人では余りにも寂しい」
「え、あの、その」
「宜しくお願いしますよ」

マジな目で言われたら、頷くしかない。
かくして、運命はここに決定されたのである。しくしく。