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鎌倉。
マンション立ち並ぶ一角に存在する、小さな公園。
そこでサッカーに興じる小学生をぼんやりと眺める、一人の女性。

ゆったりと流れる夕暮れの時。

気だるげにベンチに深く座り、胸ポケットをまさぐる――ぴたりと動きを止めて、なにやら細いプラスチックの棒を咥える。
公園に設置されたスピーカーから、午後5時を過ぎた事を知らせる、あのメロディが流れてくる。
子供達は意に介さず、サッカーを続ける。

「おーい、こら、坊主ども。帰る時間だぞ」
だるそうな口調で、声をかける女性。
「うるさいなー、オバさん」
「オバっ……!」
咥えた禁煙パイプが砕ける音がした。


――数分後。

「よし、もう一度言ってみろ坊主。なんだって?ん?」
土のついた服を払いながら、女はにっこり笑いかける。
「ごめんなさいおねえさんごめんなさい」
虚ろな目で言葉を繰り返す子供達。目に映るのは恐怖。
「ん、よし。じゃあ家に帰れ坊主ども。ママが待ってるからな?」
「どうせママなんて帰ってくるの遅いもん」
一人がむくれる。その子供の頭をわしわしと撫で、女は言葉を続けた。
「いいから帰れ。おっと、そうだ」

そこらに落ちていた枝を拾うと、がりがりと地面に絵を描き始める。

「なぁ、坊主。こーんな顔した、高校生くらいの姉ちゃんは知らないか?」
「んー」
「あー、付け加えると、いつもにこにこしてて、胸がおっき」
「そこのマンションに帰るの見た事があるよー」
「……このエロ坊主。ま、いいや。ありがとな?」

手を振る子供たちを適当に見送る。
街灯が公園を照らす。薄暗く、どこか寒々しい夜の公園。

「さて」
ベンチに置きっぱなしのボストンバッグを拾い上げると、女はマンションへと向かっていった。

//////////////////////////////

ぷるるるるる。
ぷるるるるる。

「……電話?」

珍しく早く帰宅したいのりが、机に置いた携帯を取り上げる。ディスプレイに光る、非通知の表示。
少々警戒しながら通話ボタンを押す。

「よーう、いのり!アタシだ!」

吹いた。

「……なんだよ。久しぶりだってのにそりゃないじゃねぇの」
「お、おばさま!?」
「おばさま言うな。一応アンタの――ああそう、今アンタん所に行っていいかい?」
「え、え、ちょっと待って……」

ぴんぽーん、とチャイム音。

「あ、お客様が」
「ああ、大丈夫大丈夫。だって」

鍵ががちゃりと開く。

「アタシだもん」
「ぎゃーっ!?」

ずかずかと部屋に上がりこんできた、ラフな格好の女性。
手にしたボストンバッグをどすんと置いて、靴を脱ぎ散らかしたまま部屋の中を見渡す。

「お、おばさま、何故ここが」
「アタシが探し物得意だって知ってるでしょ?ふーん、色気の無い部屋だこと」
「あうあう」

すんすんと鼻を鳴らす女。

「……男の匂いはしないやね。ダメだぞー、もう高校生なんだから一人や二人」
「な、なっ!?」
「そういやあの子はどうした、教会の近くに住んでた冴えないガキ。神井んとこのよー、どうだい?ヤったか?ヤってないのか?あとおばさま言うな。ママかお姉さんなら可。どっちかと言うとお姉さんがいいかなーって」
「い、い、い……」

「いい加減に、しろぉぉーっ!」

狭い部屋に蟲が舞った。

///////////////////////////////

数日後。
鎌倉から少し離れた地方都市。
いのりの実家である教会の礼拝堂で、背の高い神父と背の低い女が話している。

「いやー、楽しかった楽しかった。いのりの慌てる様っつったらもう!青春?青春しちゃってんの?」
「……謳歌(おうか)……余り、あの子をからかわない方が」
「だーいじょーぶだーいじょーぶ。アタシの子だもん、アレくらいどって事無いさ。な、ケージ」
「……全く、もう。昔から君はそうだったね」
「ハハン?昔話かい、ケージ。歳は取りたくねえなぁ、互いに」

ケラケラ笑って、ボストンバッグを叩く女。

「で」

ぴ、とバッグからフィルムを取り出し、神父に突きつける。

「いのりの着替え生写真。幾らで買う?」
「……ちょっと待った」
「いいじゃねーか。南米の仕事がポシャっちまって、旅費だけで大赤字なんだよー。金くれよー」
「いえ、資金援助はいいんですがそのネガはちょっと」
「処分するのも現像するのも自由だぜ?な、娘にコスプレさせる変態神父」
「な、何故それを」
「本人から聞いたしー。サイッテーだなー」
「むぐぐぐぐぐ」

papamama.jpg
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コメント
(´・ω・`)
神成先輩も色々と気苦労が耐えませんね…。(←他人事とは思えないらしい
【2007/02/13 17:27】 NAME[比留間] WEBLINK[URL] EDIT[]


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神成 いのり
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