万聖節

銀誓館学園・星宮キャンパスに程近いワンルームマンション。
ドアの前でダンボール箱を抱える影があった。

一日の授業をこなし、放課後は最寄の教会で祈りを捧げた後に結社に立ち寄る。
結社での活動を終えると、帰宅は深夜に及ぶ事もしばしばある。
今日も既に夜は更け、健全な女子高生とは言えない時間に帰宅したいのりは、管理人から宅急便を受け取った。

差出人は、実家の父親だ。

「……？」

首をかしげるいのり。
電車を乗り継げば数時間で着く距離にある実家だ。余程重要な物でも無い限り、わざわざ送ってくるなんて事はしない。
別に金銭的に困窮しているという訳でも無い。仕送りとアルバイトで十分暮らしていける。寧ろ、預金通帳の額面が少しずつ増えているくらいだ。
それに、ついこの間連休を利用して里帰りしたばかりである。この荷物に繋がるような会話はあっただろうか？
思い返してみる。

――

「そういえば、もうすぐ万聖節だね」
微笑を浮かべて、父が話す。
「今年もうちの教会ではささやかなパーティーを開こうと思ってるんだが、いのりの学園でも何かあるのかな？」
確か、仮装行列があったはず、と答える。
「ほう、洒落てるじゃあないか。今度うちでもやってみようか……聖職者が仮装というのもおかしな話だがね」
からからと笑う父。
「それじゃあ、近くなったらお菓子でも送るよ。確か学園には小中学生も居るだろう？振舞ってあげなさい」

――

ああ、なるほど。
という事は、この箱の中身はお菓子なのだ。軽いのも頷ける。
脇にダンボール箱を置き、鍵を開けて部屋に入る。
制服を脱ぎ、楽な服に着替えている間に、蟲が箱を運んできた。

「……入ってるお菓子は食べちゃダメです、アーノルド」

デコピン炸裂。しかしアーノルドは倒れない。（いのり曰く）肉体派のアーノルドに打撃は効かないのだ。
更に机からカッターまで引っ張り出している。
やれやれと嘆息しながら、箱を開封するいのり。

中から出てきたものは、沢山のお菓子。
カボチャの形をしたマシュマロ、手製のクッキー、飴玉、チョコレート、などなど。
一抱えもある箱にこれでもかと詰め込まれた菓子に苦笑する。
そして、一番上には手紙。

”いのりへ　これも聖職者の務めです　楽しみなさい　　父・啓二より”

菓子を配るのは構わないが、楽しめとは……確かに、学園のハロウィンはお祭り騒ぎのようだから、間違いでは無いとは思う。
大きなトートバッグに菓子を詰め込みながら、そんな事を考える。
菓子をあらかた詰め終わってみると、底の方に大きめの紙袋が入っていた。

「？」

がさごそと、紙袋を開く。
入っていたのは、手紙と――

きわどいデザインの黒いドレス。カチューシャ。裏が赤地の黒マント。

”追伸　　これも聖職者の務めです　着ないと後でゴッドチョップ。　尚、証拠写真はいのりの結社の子に送るよう頼んであるので覚悟するように。　パパより”

「……あああああああ、あのバカ神父っ！」

============================================================
　この作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する
『シルバーレイン』の世界観を元に、
株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
　イラストの使用権は作品を発注したお客様に、
著作権はあにゅに、
全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
============================================================

いのりの苦悩は絶えない。