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*前編からお読み下さい。

がたんごとんと揺れる車内。
鎌倉から普通電車で数時間。そこが、私達の生まれた街だ。

「ねえ、上人様」
「外で様付けはちょっと」
「じゃあ、うーちゃん?」
「はい?」
「……ふふ」
「何がおかしいんですか」

盆とはいえ、ピークの時期は過ぎている。
昼間のがらがらに空いた席で、少し離れて座る私達。
中学になって、離れ離れになって、再開するまでの長い長い時間が作った、二人の距離。
子供の頃はあんなに近かったのに、今は遠い。

「……りちゃん?いのりちゃーん?」
「はっ」
「目が泳いでましたよ。何か考え事でも」
「ええ、まあ」

頬に手を当て、微笑んでごまかす。

「昔は」
「え?」
「昔は、そんな仕草はしませんでしたよね」
「そういえば、そうですね。でも、そんな事を言ったらうーちゃんだって」

手を伸ばして、眼鏡を奪い取る。

「あ」
「こんな眼鏡をかけてなんかいません」

そのまま、眼鏡をかける。

「ふふ。知的に見えますか?」
「……ノーコメントです」
「ええー」

ぷうとむくれる私の顔を見て、笑う。
度の入っていない眼鏡越しに見える笑顔は、昔のままだった。


/////

駅からバスに乗って十数分。
繁華街と住宅街の間に位置する、トラディショナルな白壁の教会が見えたら、そこが私の家だ。
戦前、丘の上に立っていた教会が取り壊され……戦後に、同じ図面を用いて再建されたこの建物は、見た目はそれほど古びていない。
歴史的価値とか何やら難しい話は良く分からないが、近年は観光に来る人もちらほらと見かけるようになった。

大きな正面扉を開ければ、礼拝堂が見える。
休日であれば人で埋まる席も、平日は空席だらけ。教会に盆は関係無いが、世間は盆休みの真っ只中だ。
人が居ないのは当たり前、なのだが。

「誰も居ませんね」

デイバッグを近くの椅子の上に載せながら、上人が呟いた。
そう、人っ子一人いないのだ。
神父の姿さえも見えない。

「……私室でしょうか?」
「いえ、平日のこの時間に礼拝堂を空けるはずは無いです。うちの父なら、絶対に」

ぐるりと室内を見渡す。
手入れは行き届いており、埃が積もったような跡は見られない。
長期間不在という訳ではないようだ。

「とりあえず、裏の住居へ行ってみましょうか」

礼拝堂の奥にある、住居へと繋がるドアに向かう私達。
近づいてみれば、ドアの向こうから話し声がする。男性と女性。

「……なるほど、お客様ですか」
「そのようですね。どうしましょう?」
「少し待ちましょう。邪魔をするのはよくない」

二人で最前列の椅子に腰を下ろす。
席を一つ空け、一人分の距離。

「毎週、日曜日になると」
「ええ。この場所に、二人で座っていましたね」
「ここに座ると、あの頃を思い出します」
「じっとしているのって、苦痛でしたね。あの頃は」
「そうですか?私はそうでもありませんでしたが」
「……」
「あの頃のいのりちゃんはお転婆で、手が付けられないくらいでした」
「それは昔ですよ!今とは違いますっ」

赤くなって否定する私を見て、目を細める上人。

「すっかり変わってしまいましたね」
「ええ、お互いに」
「……と、向こうから声が聞こえなくなりました。行ってみましょうか」

立ち上がり、ドアに手をかけようとしたその時――


奥の方から、ドアごと神父が吹き飛んできた。
がっしゃーんという音と共に二転三転し、周りの物を薙ぎ倒してようやく停止する。

「おや、いのり。それに上人君も」

何事も無かったかのように話しかける神父=うちの父親。
但し仰向け。

「はっはっは。これはいいところに帰ってきたね。ちょっとアレの相手をしてくれないか」

くいくいと、ドア(のあった所)の奥を親指で指し示す。
そこに仁王立ちしているのは、妙齢の女性――ワイシャツにジーンズ姿のラフなスタイル、サングラスに咥えタバコ……ではなく、禁煙パイプ。

「このバカ神父ッ!禁煙して毎日地獄見てるアタシの前で煙草なんざちらつかせやがッ……お」

こちらに気付くと、怒りの表情を一変させた。

「よういのり。それに、神井ん家のボーズじゃねえか!でっかくなりやがって」

あっはっは、と笑い飛ばしながら上人の肩をバンバンと叩く女性。

「お久しぶりです、薙原さん」
「堅苦しいなあ、オーカでいいよオーカで。いやー、しばらく見ないうちに変わっちまったな。写真は見たんだが、実際に会ってみるとまた随分と印象が違うもんだ」
「おばさま、どうしてここに」
「おばさま言うな!?……まァ、アレだ」

くしゃくしゃと髪を触りながら、ばつが悪そうに話す。

「一応、世間様は盆休みだからな。アタシも休み取って、久しぶりに日本に戻ってきた訳よ」
「ほほう。いのり達が来ると訊いてわざわざ戻ってきたのだとばかり思っていましたが」
「うるせえバカ神父」

立ち上がり、服についた埃を払っていた神父に咥えていたパイプを投げつける。
軽いプラスチック製のパイプのはずなのだが、直撃した神父の額が赤く腫れているのは気のせいだろうか。

「……ま、とにかく。こうして集まった事だし、立ち話もなんだからあっちでゆっくり話そうぜ」

と、外れたドアの向こう――住居側を指差して言った。
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